第3話「鰭」

「コイツを倒せば、オレの望みを叶えるんだな?」

目付きの悪い男はそう言いながらタバコに火をつけた

「あぁ。ただ、倒すだけではダメだ。あくまで目的は音無速斗のベイの回収だ」

それを聞くと、目付きの悪い男はタバコをふかして口元をニヤつかせた

「任せらァ。この『牙 龍二』がぶっ潰してやるよ」

目つきの悪い男はそう言って月の光の当たらない道を歩きながら暗闇に消えていった

一方、深夜12時を回る頃、山奥にあるギャラクシア本部で自作ドライバーの強化実験をしていた

「いけっ!ガブリエル!」

超加速で攻める「モード1」で次々とバーストをしていく

「はぁ…はぁ…」

「調子はどうだ?音無速斗。」

青いシャツに着替えた海王龍呉が水の入ったペットボトルを投げてきた。
それをキャッチすると同時に力が一気に抜ける

「まぁまぁだな。だが、前よりは扱えるようにはなってきた」

いくつかギャラクシアお手製の軸先パーツを替えて試してみたが、ラバー軸パーツは今のモーターの力じゃ相性が悪すぎた。
代わりにフリー回転軸のスタミナ軸を無理やりモーターで暴れさせているが、今のところこれが一番相性が良域がする

「まさか、スタミナ軸をモーターで暴れさせて超加速による自滅を防ぐなんて発想が出るなんてな」

「現段階ではラバー軸は自分のテクニックじゃ活かし切れないからな。それに…」

このドライバーには『ハザードコアシステム』が残っている。

「例のシステムか…。一応エンジンドライバーの全てを解析したが、アレのコントロールは相当困難だろうな」

その通りだ。
あのシステムはブレーダーの絆やテクニックで語れる問題ではないのだ。

「あぁ。あのシステムは身体への負担が大きすぎる。元々は3つのモードチェンジを作る際たまたま生まれた1つの誤作動のようなものなんだ」

「なるほどな…。取り敢えずそのシステムは後で考えるとして幾つか実験データを元にして使った軸先パーツはこの3種でいいんだな?」

『オプション‪α‬』…超巨大フラット軸

『オプションβ』…超巨大のラバー軸

『オプションΔ』…フリー回転する皿軸

オプションβは今のところ使える力がないため、‪α‬とΔを使っていくことにする

「あぁ。ありがとうな。これで前よりはマシになったよ」

「お話中、失礼するねぇ。」

俺が龍呉と話しているとトレーニングルームに黒髪の少女が入ってきた

「ミカンがこの時間に来るって珍しいじゃないか」

どうやらこの少女はギャラクシアの幹部の1人らしい。
それにしても…

「むっ。今私のこと『小学生?』とか思ったでしょ?」

「お、思ってねぇよ!」

「まぁ落ち着けミカン。そんで話は変わるが、何か急用があるからここに来たんだろ?」

龍呉が真剣な顔でミカンに問う

「…そう。実は音無速斗に向けたボイスメッセージが何故かギャラクシアに届いたのよ」

俺がギャラクシアに向かったことがバレている…?
様々な可能性を考えていると、ミカンがPCの再生ボタンを押した

『てめぇが音無速斗だな?オレは『牙 龍二』だ。お前の父親の情報が知りたければ今すぐに運動公園のスタジアムに来い。』

(父さんの真相を知っている…!?)

いてもいられなくなり、走り出そうとしたその時

「待て。音無速斗!罠に違い無い!」

龍呉が止めに入ってきた

「離せ!コイツが何か知ってるのかもしれないんだぞ!?

「冷静になれよ。仮に知っていたとしてもコイツはLORDの人間ではない。」

「だけどよ……」

確かにLORDの連中なら急にボイスメッセージなんか送ってくるはずがない。
しかも、俺たちの動きを監視していたかのように録音日も今日になっている

「ここは、俺が行く」

「あれぇ、龍呉が出るって珍しいじゃん」

「まぁな。少し気になる所があるからな」

龍呉もブレーダーだったのか。
よくよく考えると伝説のベイを研究している以上ベイブレードをやっていてもおかしくはないはずた

「すまない。ここは任せた」

俺の言葉を聞くと龍呉は口元を和らげた

「あぁ」


ー深夜の運動公園ー

「待たせたな。牙 龍二

公園のスタジアムに映る2つの影を俺は遠くから見ていた

「あァ?お前が音無 速斗か?」

そう。あの現場にいるのは青いローブを着ている龍呉だ。
素顔を明かしてないため、相手は俺だと思い込んでいるのだ

「あぁ、そうだ。早く父親の情報を教えろ」

「まぁ、そう焦るなってァ。親父の情報を教えて貰いたきゃァ、オレを倒してみろってなァ?」

予想通り、タダでは教えてくれないらしい。
その言葉を聞いた龍呉は

「もし、俺が負けたら?」

龍呉の質問を聞いて俺の頭にたった一つの答えが出てきた

(ガブリエルの強奪!?)

「そしたらァ、お前のガブリエルを寄越せ」

やはり、相手の狙いはガブリエルだったか。

「父さんをダシにしてよくも…」

しかし、俺がここで怒っても変わらない。
俺は龍呉を信じること以外出来ることはないのだ。
相手の答えを聞いた龍呉は…

「Bランクが俺に勝てるといいね」

「てめぇ…。調子乗ってんじゃねぇぞ…」

龍吾の煽りを聞いた龍二が本性を現す

「早く済ませよう。お前は俺の経験値となれ」

両者ランチャーを構える。
龍二はパワー型の縦引き。
龍呉はテクニック重視の横引きで構えている

『3!2!1!』

カウントとともにそれぞれシュートフォームの体勢に移る。
龍呉はランチャーを縦に構えて腕と共に下ろしてスタジアムへの衝撃を与える「スラッシュシュート」だ。
一方、龍二は低く構えて前に踏み込む「ダッシュシュート」の構えだ。
最後のカウントになったとき、それぞれのベイがスタジアムへと放たれる

『GO!シュート!!!』

龍呉は青いベイを放った。
その加速力はエンジンドライバーを超える程だ

「あれは、アクアリヴァイアサンだね」

「ミカン、着いてきてたのか?」

後ろから突然小さな影が現れた

「まぁね。牙 龍二のベイが少し気になってね」

そういうと、ノートパソコンを取り出してカチャカチャと作業を始めた

「行け!リヴァイアサン!」

超加速で龍二のベイをスタジアムの壁に叩き込む

「んな、ぬるい攻撃効くかよッ!!」

それに対抗するかのように龍二のベイは壁に反射して対角線上の壁に当たってリヴァイアサンに攻撃を仕掛ける

「今だ!!スプラッシュアップ!!」

先程の一撃で遠心力が弱まったリヴァイアサンが上空へと跳ね上がった

「んだとっ?!」

「ふーん。龍呉、まぁたスプリングの強化したんだぁ」

「スプリング…?」

どうやら、龍呉のドライバーは遠心力でバネを縮ませて加速させて、弱まると跳ね上がって空襲を仕掛けるドライバーらしい。
それに加えて、レイヤーの「アクアリヴァイアサン」は可動するラバー刃が搭載されていて、逆回転の相手には吸収しつつ、遠心力をキープして、同回転の相手にはラバーの摩擦でバーストを狙えるバランスレイヤーなんだとか

「沈め!『アクアフィレット』!!」

レイヤーの周りにまとわりついているラバー刃が龍二のベイを上から襲う。

「ぐっっ…!耐えろッ!」

龍二が咄嗟に叫ぶが、それに答えられずスタジアムの中心にめり込んだ

「スピンフィニッシュか…。よく耐えたなお前のベイ」

「てめぇっ…」

龍二は睨みながら回転の止まった自分のベイを拾い上げる

「約束通り、父親の情報を吐いてもらおうか」

「へへっ…。残念だったなァ?オレは情報なんてァ持ってねぇよ…!!!」

(やっぱり…。こいつ…!!)

予測通り、コイツは俺のガブリエルを強奪するのが目的だったのだ。
しかし、俺は一つの違和感を覚えた

龍二はなぜ、ランクの低いベイブレードを使ったんだ?」

ブレーダーにランクがあるようにベイにもランクがある。
ランクが高いほど、市販で手に入らないベイばかりなのだ。
しかし、龍二の使っていたベイはEランクそこらのギミックのないベイだった。
Bランクのブレーダーとしてはあまりにもイレギュラーすぎる

「やっぱりな…」

龍二の答えを聴いた龍呉は動揺せず、小さくため息をつく

「あとよォ、お前。音無速斗じゃねぇだろ?」

「なぜそう思う?」

「決まってんだろォ?そもそもオレが依頼された時点で音無速斗が別の『誰か』と行動してたのは知ってんだよ。だから、オレはへなちょこな弱いベイを使ってバトルしたんだよ」

やはり、そういうことだったか。
伝説のベイは使い方を間違えれば、相手のベイを滅ぼしかねない力を持っている。
龍二はわざと「知らないフリ」をして別の低ランクのベイを使ったのだ。

「なるほど。つまり、お前は相手を滅ぼしかねないベイと戦いたい。だから低ランクのベイを使ったわけか」

「ご名答だなァ。オレは相手をとことんぶっ潰す。戦った相手のベイをボロボロにするのがオレの『バトル』だ。相手を滅ぼす程の力を持つベイと戦えるって聞いたときは頭がおかしくなるほど興奮したぜェ」

コイツはただ戦いたいんじゃないんだ。
破壊を求め、破壊に固執した狂人なのだ

「彼、ほんと醜いねぇ…」

ミカンが零した一言。
それに反応するかのように龍呉が言ったこと

「なら、そいつに会わせてやるよ。お前が滅ぼされるその過程を見届けてやるよ」

そう言うと龍呉は俺の方を見た。
きっと、合図なのだろう。
龍呉からのGOサインを受けた俺はスタジアムへと歩き出す

「待たせて悪かったな」

「てめぇが本当の音無 速斗 かァ」

俺を見た龍二はニヤついて本当のベイを取り出した

「さぁ、第2ラウンドといこうか。牙 龍二